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無断転借人の自殺により貸主が被った損害賠償請求が認められた事例

(東京地裁平成22年9月2日判決)

事案の概要

貸主は、借主に対して、マンション1室を賃貸し、間もなく、借主は、貸主に無断で、第三者に当該居室を転貸した。

その後、転借人がマンションの居室内で自殺しているのが発見されたため、貸主と借主は、賃貸借契約を合意解除した。

本物件は、不動産仲介業者の従業員に、賃料を減額して賃貸された。

そこで、貸主は、借主と保証人に対し、未払賃料、原状回復費用のほか、新賃貸借契約の期間(58ヶ月)の賃料減額分の損害が発生しているとして、損害賠償請求をした。

結論

貸主は、借主と保証人に対し、未払賃料、原状回復費用のほか、本来であれば設定し得たであろう賃料額と実際に設定された賃料額との差額相当額も、逸失利益として損害賠償請求できる。

本件では、居住者の自殺により、貸主は、1年間は賃貸できず、その後、2年間は賃料相当額の半額でしか賃貸できないから、貸主が逸失利益として損害賠償請求しうる金額は、1年分の賃料相当額及び2年分の賃料半額相当額の合計金額から中間利息を控除した金額である。

理由

借主は、貸主に対し、善良な管理者の注意をもって賃貸物件を使用収益すべき義務(善管注意義務)を負うところ、無断転貸を伴う建物賃貸借においては、居住者が当該物件内部において自殺しないように配慮することも義務の内容に含まれる。

従って、本物件内において居住者が自殺したことは、借主の善管注意義務の不履行にあたるから、これと相当因果関係ある損害について、借主と保証人は、貸主に対し、賠償義務を負う。

本物件を賃貸するにあたっては、宅地建物取引業法により、宅地建物取引業者は、賃借希望者に対し、自殺の事情を告知すべき義務を負う。

それゆえ、告知の結果、本物件を第三者に賃貸し得ないことによる賃料相当額、及び賃貸し得たとしても本来であれば設定し得たであろう賃料額と実際に設定された賃料額との差額相当額も、逸失利益として、借主の債務不履行と相当因果関係のある損害といえる。

ただし、賃料額を低額にせざるを得ないのは、物件内での自殺という事情に対し通常人が抱く心理的嫌悪感に起因するものであるから、時間の経過とともに自ずと減少し、やがては消滅するものである。

また、本物件は、単身者向けのワンルームマンションであり、都心に近く、交通の便もよい利便性の高い物件であり、賃貸物件としての流動性が比較的高いものといえるから、心理的嫌悪感の減少は他の物件に比して速く進行すると考えられる。

従って、貸主の逸失利益については、賃貸不能期間を1年とし、また、本物件において通常であれば設定されるであろう賃貸借期間の1単位である2年を低額な賃料(本件賃貸借の賃料の半額)でなければ賃貸し得ない期間と捉えるのが相当である。

また、将来得べかりし賃料収入の喪失ないし減少を逸失利益と捉える以上、中間利息の控除も必要というべきである。

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